さがしつづけてしまう
石川和広

悪戯がからだに忍び込む
その悪戯がうるさいのだよ

うるさいのは…なんというか
空を満たす透き通った布切れだとか
電気の波だとか
話し声
それらに押し流される私の意思
意思なんかカケラみたいにどんどんこの
この当たり前の世界にそれらしく流されていくのだが

その極めて私的な事実が己の力を奪う
いや誰が奪うでもないけど
けど、骨抜きになってスカスカんなって
それはもう不愉快な愉快だ

首を回す
足を伸ばす
身体を左右にひねる
ふくらはぎも伸ばして
からだを大きく旋回
背骨や筋肉の間に隙間をつくらないと
それぞれの間の血流が傷んですぐに
くるしくなってしまう

かろうじて私自身が奪われないように
しっかり体操して自分の身体を毎日思い出すようにしている
そうしないとすごく意思と、身体が離れて
繋がりというか命綱が断たれてしまう
おまけに体操は肩こりにもよい
冷えにも抜群にいい 実際今年は風邪も引かず
元気にやってたりする

寒い日に雨が降るかもしれない
窓には結露がびっしり 雑巾で拭くことにしている

あけそめた光を隠す
厳しい雲がうつる
その感じは嫌いじゃない

どんどん
塞いでくれたらいい
目の前も
後ろも
以前ならすぐ萎れた草や木は
毎日水を注ぐ量を変えただけで
意外な強さをとりもどす
植物は中が柔らかいからだ

私だって植物の性能は持ってるんだから
見た目は湿気ていてしかしながら魂は枯れたようで
いやらしい匂いを放ちながら冷たい空気を
あなたの中にはこぶようだが
そんな私でも光や黒の間で生きている

外に出ると
あなたのことを特に考えていない一瞬を発見する
もう会うことがないかもしれない
あなたは帰ってこんかもしれん
私も会うのやめようかと思うけど
私がお茶ばかり飲んでいたから
結局は私には相手とつながりがあるという深い感覚が
理解できないのではないだろうか
理解できない自覚はあるがまだそれを育てることを
始められていないのではないか
深く深く心配である
そういうつまんない一瞬の断崖が
見えてくる

あたりまえのように放つ私やあなたの言葉の中に
私とあなたの混ざり合ったやさしい空気の中に
互いの瞬間の生成りの中で間違いや鈍感を感じ取って
不思議ではなかった


不思議だとしたら
雨が降るときも
どこかに息を潜めながら
くすぐりあう生き物がいることであり
掛け違えた何かを
すこしずつ埋めていく音や光があることだ

それが慰みとなって
それだけでよくわからないまま私たちは
ここに別々に取り残されている
それで何が足りないと私は言うのだろう

道のひび割れや
錆び付いた屋根のある
もう崩れたような家の間を
すこしずつ辿るとき

少し先の
角を曲がっている人影が
僕のようで
自分の片身のようで

その人は誰と話すんだろう
その声はどこから来るんだろう
その先にはたばこ屋があって
ついこないだ営業をやめた本屋があって
そういうなのがうわっと気になって
疑問やさざなみが私の中に生れてしまう

知らない婆さんが引き戸を開けて
植木鉢をみている

まなざしでしかない
まなざしですらない
あらゆるまなざしの中に
どうしてもひび割れた何かを塗りつぶすにかわを
しつこくしつこく探してしまう

闇雲に探してしまう
探すことそのものが虚偽や不正に思える
探すことに罪がある
深淵を埋めてしまうことは罪であるように思い込んでいる
生き物はうまく傷を治すのに
細胞は日々生成しているのにそれよりも早く
早くと
より早く私の周りにある深淵を
塞ぐにかわを探し続けてしまう



自由詩 さがしつづけてしまう Copyright 石川和広 2009-01-21 18:25:29縦
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