しかんたざ
れつら


古い夢を見た
ドアの向こう側は赤く塗られていて
こちら側でノブに触れている
覗き穴からは配達夫のノックが肘から先だけ宙に浮いていて
振りかぶったところで細かく震えている
メトロノームを拡大したような時計の音が残響で
断面は見えないが刻まれていることだけは分かる
ドアノブは球状で余りに大きく握ることが出来ない
突き通る軸に任せて回そうとするが
X-Yが逆転した独楽にすぎない
空転する
空転する地面で古い夢を見た
私は立っているか座っているか横になっているかしかできないが
彼らは違う
腰を下ろしかけている者は撃ち抜かれ
立ち上がりかけている者は尻を蹴り上げられる
それ以外の者は既に四肢が散り散りなので
立つでもなく寝るでもなくそこにあることが分かるだけだ
そこにあることが分かるだけで
それは人ではない

古い夢を見た
視線を水平に取れば行く先はどこまでも遠い
肝心から離れて透き通る未来のもうひとつ先
ぶつかる者もいるが
ぶつからない者もいる
ドアは垂直に屹立して低くその徒手で天井を突き刺す
血の滲まないことを嘆く者に傷口はなく
傷口がある者は既に口がない
流れる川の赤さを聞くのは生きている者だけで
ここには生きている者しかいない
それ以外は夢のようにある
それは古い夢だった
知ってる
今日テレビで見た






自由詩 しかんたざ Copyright れつら 2009-01-13 13:09:56
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