タマトギ
不可思議/wonderboy

遥か昔、人々がまだ目に見えぬものを信じていた頃、タマトギは島に一人はいたものだという伝承が南方の島々にだけ残っている。


涼しい夜を 選んで歩く
月夜が照らす 道を明るく 
男は行くあてなどない旅の身
それでも確信的な足取りで
「何かが導いてるのだろうか」
方角は不思議と定まりゆく
うずく 何か 左胸のあたり
意思すら感じる 体の中に
その時だった 男のそばを
一筋の光が通り過ぎる
蛍だろうか 蛍にしては
いささか光が大きすぎるな
好奇の心 男はすでに
光を追うのを抑えられない
景色は開ける 言葉を失う
村 一面に 光の群れが

今日も老人は魂を研ぐ
あらゆる風景が生死を説く
旅人は繰り返す毎日を問う
月や波が音を纏う
今日も老人は魂を研ぐ
嘘のない心が錆びぬようにと
旅人は繰り返す毎日を問う
膨大な時間に足すくまぬようにと
あらゆる風景に神様が居た頃
道具や厠にも神様が居た頃
儀式や祈りが意味を持っていた頃
目に見えぬものを信じていた頃
人々が自然を愛していた頃
人々が家族を愛していた頃
人々が恵みに感謝していた頃
誰にでも帰るべき居場所があった頃

水面に映る 満月の晩に
それぞれの魂は旅路を急ぐ
生ける者 死す者 ありとしある魂が
一人の老婆に集まり来る
魂たちは行列をつくり
互いに共鳴し 光を放つ
連なる輝き 一つ一つが
やがては一本の大河となる

今日も老人は魂を研ぐ
あらゆる風景が生死を説く
旅人は繰り返す毎日を問う
月や波が音を纏う
今日も老人は魂を研ぐ
嘘のない心が錆びぬようにと
旅人は繰り返す毎日を問う
膨大な時間に足すくまぬようにと
あらゆる風景に神様が居た頃
道具や厠にも神様が居た頃
儀式や祈りが意味を持っていた頃
目に見えぬものを信じていた頃
人々が自然を愛していた頃
人々が家族を愛していた頃
人々が恵みに感謝していた頃
誰にでも帰るべき居場所があった頃

ついに男は老婆に会う
幾重にも重なる光が取り巻く
無愛想が似合う 表情の中から
何かを知ろうと言葉を待つ
「私はタマトギ 魂を研ぐ者
光の塊は 魂そのもの」
老婆の声は井戸より深く
男はなぜか一歩も動けず
「私にそれを預けてはどうか」
老婆の両手は男の胸に
男は倒れる かすかに聞こえる
生死の間に境は無いと

今日も老人は魂を研ぐ
あらゆる風景が生死を説く
旅人は繰り返す毎日を問う
月や波が音を纏う
今日も老人は魂を研ぐ
嘘のない心が錆びぬようにと
旅人は繰り返す毎日を問う
膨大な時間に足すくまぬようにと
あらゆる風景に神様が居た頃
道具や厠にも神様が居た頃
儀式や祈りが意味を持っていた頃
目に見えぬものを信じていた頃
人々が自然を愛していた頃
人々が家族を愛していた頃
人々が恵みに感謝していた頃
誰にでも帰るべき居場所があった頃



自由詩 タマトギ Copyright 不可思議/wonderboy 2009-01-10 16:04:24縦
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