清掃日和
shu

今日は水族園の定休日
清掃はぼくの仕事だ
すっかり水の抜けた巨大水槽の中
頭上に燃える太陽
遠くジェット機が白い尾をひいて空を行く
濡れたコンクリの地面に空から落ちた星のように
干からびたヒトデが転がっている

ピチチチチ

さっきからどこかで
魚の跳ねる音がするのだけれど
どこにいるのかわからない
表面に気泡のできた巨大な岩をブラシでゴシゴシこする
田舎のばあちゃんのオニギリの匂い
気泡の穴から時折シャボン玉が舞い上がる

プクリプクリ

死んでしまったジンベイザメのかわりに
明日から深海で見つかった人魚が来るという
深海魚って顔がでかかったり
目がぎょろっと大きく腫れ上がったりしてるし
あんまり期待していない
でもどんな子なんだろう

ひとつ ふたつ みっつ

デッキブラシに頬を預けて
シャボン玉の数を数えているうちに
目蓋の裏にひなたの欠片がゆっくりと沈んでいく

細胞膜のようなガラスの向こう
赤く透けた人魚の目
深海の眼差し
暗い海底に黒く翻る影
過去を呟く無数の泡

ピチチチ

跳ねているのは

忘れ去られた

ぼくの

尾ひれ







自由詩 清掃日和 Copyright shu 2008-12-25 23:37:27
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