老人と詩と
杠いうれ

ゆうぐれを食む
四百の泡
無声音の多いスピーカーと
光沢のない爪の切れ端
みずさしに万年筆
薬瓶にクワガタソウ

柔らかなどぶのせせらぎ



羊が歩くゆめを ひととき

  銅のやつをね、やったんだ。ちいさいやつさ
  もう硬貨にでもなっちまったかな


いつも毛布だけが守り、染みを拵える
しみ、
すべらかな
なだらかな場所に落ちた
アイスクリームを
想う

それは記憶だったか 泡の上だったか
炭酸水のように
こみ上げてくるのは、



  なんでも構わんよ、噛まずに済むならね
  味なんてもう分かりゃしない


空の縁取りは鉛と化す
目覚めているとき堪えられるよう わるいゆめを

せせらぎは遠くなる


――夜には車輪の慟哭がしゃしゃり出てくる、せめて未明に――


しずかに

羊が歩くゆめ
銅の羊だ
ちいさい、彼女の手の平にも乗るくらいの
その手で紫の花を摘んでおいで
すまないね、この部屋には花瓶すらないけれど
アイスクリームをあげよう
ピンク色の
苺? ソルダム? いずれにせよ甘い何かだ
若い娘さんよ
たくさんのうたを胸に抱えて
羊を連れてゆく
羊は唄う
穏やかな歩み
歩み、



柔らかなどぶのせせらぎ
陽と影を受け
窓から舞い落ちた 手垢だらけの紙

あの子が 追って来れなくなるまで





自由詩 老人と詩と Copyright 杠いうれ 2008-12-18 13:02:54
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