12月
たちばなまこと

今年も背中を見せる
あなたの上着の裾を つまんでみる
皆 走っているからね
この子とふたり 取り残されているみたいでね
寂しくってね

私の指の小さなダイヤモンドが
電飾と歌を歌っている
ことばを始めた男の子は
「ください、するー」と
シルバニア・ファミリーを抱えて ママの手を引くよ
ファミリー。
広いおもちゃ屋のフロアーには
ファミリーがいっぱい
パパの肩車
パパの抱っこ
パパと手つなぎ
パパ、パパ、パパと呼ぶ声たち

いつか「ぼくのパパはどこ?」と発せられたら
パパとママときみの話をしよう
パパはママのことが大好きって思って
ママはパパのことが大好きって思って
ちょうど今日みたく お月さまがきれいな夜に
「神さま、天使をひとり、私たちにください」って
お願いをして 手をつないで眠ったんだ
天使は空からパパとママのことを見ていて
「神さま、ぼくは、あのパパとママの天使になります」って
降りてきたよ
そう きみだよ

パパとママは天使をいっぱい抱っこしたよ
パパの病気も少し良くなったよ
だけど パパは神さまに「帰っておいで」って
呼ばれちゃった
今は
空から
ママときみを見ているのさ

休日の
街の
音が光が風が走る
私ときみが取り残されて
もみの木を見上げるばかり
「あっ」と きみが指差す先には
てっぺんに光るお星さま
きみの顔が明滅している
「神さま、ああどうか、
 私よりも先にこの天使を、呼び戻さないでください」
12月の裾を握りしめる
涙はいつも 目の底へ染みこんでゆくだけ



自由詩 12月 Copyright たちばなまこと 2008-12-09 06:47:19
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