その瞬間に
乱太郎

なだらかな曲線を描いて
時間が蛇行している
本当は
霧状のものなのに

浮揚している
空虚な意識を投げ込んで

思考は楕円形のひもの上を回り続け
輝きを薄めていく



   *



縛られた首筋から
滴り落ちる一滴の青い血
運命に抱かれたままに
満月の下
妄想と現実が
交互に揺れ動く
影の饗宴
僕の腕から皮膚が溶解し始め
血だらけの筋繊維が
ひくひくとひきつりながら
月光にさらされていく
澄んだ闇
宇宙空間に呼び寄せられる黒い大気
冷えきった騒々しさ
僕はここにいる
叫びは
重力を撥ね退けて
永遠の谷間に落ちていく
押し寄せる沈黙の幕
枯れたはずの涙が
透明な涙が
胸の奥にこぼれていった
同時に
時の雫も音もなく沈んでいく
手を差し伸べてみたが
掴むことが出来ずに
意識の下層に沈んでいった
今 この一瞬



   *



1 血管の極度の凝縮の果て つまずいた一個の青森りんご
  振り向くと 君の寂しげな眼が 白い森を彷徨っていた

2 輪投げに興じる少年達 標的は希望という名の幻想
  石を投げつけられた水面は まるで臆病者みたいに震えている

3 結末のない小説 無限大の微分に僕は戸惑う
  時間がなければ 自由になれたのに

4 粘着質の糸で かろうじて結ばれている 肉体と精神
  疲れた両足を背負って 夜空の星を 渡り歩く

5 無限から拾い上げた「今」 携帯電話が未来を告げる
  無数の過去から 一本の未来が 釣られた




自由詩 その瞬間に Copyright 乱太郎 2008-11-27 16:59:37
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