眼球
士狼(銀)



カンガルーの母親には常に三匹の子供がいましたが、
お役所が決めてしまったので、
年上の二匹は殺されてしまいました、
胚の子が生まれてくるまで、
お腹の袋に子供がいないので、
カンガルーの母親はなんだか不安になってしまって、
荒野を歩いては子供ぐらいの大きさのものを入れました。


それは時に無造作に廃棄された生活ゴミでした、
角や破片がカンガルーの母親のお腹を傷つけました。

それは時に殺された動物の死骸でした、
腐敗が進むにつれお腹の傷は化膿してしまいました。

それは時に座礁した鯨の子供でした!
カンガルーの母親はただ無心に千切って泣きました。


何を入れても落ち着かないので、
カンガルーの母親は泣きながらお役所に行き、
わたしの子供を返してください、
返してください、
と何度も何度も頼みましたが、
お役所の屋根に住む鳥たちは取り合ってはくれませんでした、

環境対策だから(諦めなさい
死んでしまったのだ(諦めるな(殺されたのだ
それは間違っている?(それは正しい?(淘汰されるべきは誰だ?
太陽が落ちるときを、
静かに受け入れられるものに、
武器など要らぬ
嗚呼その眼球の美しさ!

鳥たちが口々に騒ぎ始めたので、
お役所の人たちに見つかった、
ボロボロの母親は殺されてしまいました、
その時生まれた子供は、
薄れていく体温を追いかけて、
冷たく硬くなる母親にしがみついて死にました。

遠くの方で柵の中の羊たちが、
くすくすくす、
と笑っているようでした、
ぷあぷあと泣いていたのは、
或いは珊瑚の海であったかもしれません、
真っ青な空と真っ白な雲の見事な昼のことでした。







自由詩 眼球 Copyright 士狼(銀) 2008-11-26 22:27:01縦
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