心臓
士狼(銀)

悲しみを知らない人などきっといません、


同じような顔で同じような服を着て、
量産型が街を歩いているよ、
ねぇ、
おかしいね、
おかしいね、
同じでなければ怖いんだ、
臆病だね、
と鳩たちが笑っているというのに、
知らないふりをして、
忘れたふりをして、
仮面の分厚くなった人たちが、
鏡を前にするとき、
ひび割れた隙間から、
歪んだ自身を見つけたとき、
悲しみは、
いったい何処へゆけばよかったのでしょう、
心臓へ戻ってきた血液の中に、
僅かに忍ばせた全身の悲しみは、
いったい何処へゆけばよかったのでしょう、


かなしみを亡くした彼女は、
もはや笑うしかなかったのかもしれません、
愛していたカナリアが死んだときも、
笑っていました、
涙をなくしたら、
此処においで、
と彼女は笑います、
彼女の笑顔はわたしを悲しくさせるので、
それは確か雨の夜でした、
波紋が共鳴を繰り返す中で、
満月をみたような気がしたのです、
わたしは、
ホットミルクに砂糖を入れて、
スプーン一杯分の毒を忍ばせて、
涙を探すことにしました、


海の色はかなしみの涙の色ではありません。


自由詩 心臓 Copyright 士狼(銀) 2008-11-15 16:23:00縦
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