夏の朝、午前5時半、
佐々宝砂

いつもあのひとのことを考えているわけではないから
たまには大目に見てやってほしい

外は爽やかに水色の夏の朝
汗で酸っぱいTシャツを脱ぎ捨てて窓辺に立っても
田舎の農道に車一台通るでもなく
ただクマゼミがシャンシャンと鳴くばかりで
焦燥感をどこにぶつけたらいいのか見当もつかないけど
だからといって私は死んだりしないのである

ため息つきつつ虫さされに塗る抗ヒスタミンクリームに
R−メントールがほんのひとたらしも含まれていないこと
友だちから来たメールに返事しなくちゃしなくちゃと思ってて
でも優しい言葉はかけられないから必死にジョークを考えていること
近所の野良猫のふくれた腹が最近とつぜんひっこんで
昨夜あたりから痩せた仔猫がうちの玄関付近を徘徊していること

などなど
どうでもいいことが妙に気になってたまらず
でもそんなこと気に掛けてもしかたないと知ってはいて
そんなとき南から便りが来るとおしまいで

ということはないや
私はまだ終わりゃしませんて

今日は精神科受診の日です
薬も飲まずよく眠れるようになりました
眠りすぎるくらいです
よくぼうっとしています
食欲はふつうです
でも断食すると気分がいいので
たくさんは食べません
肩凝りなので運動を心がけています
ヨガをよくやります
結跏趺坐して背筋を伸ばすと気持ちいいです
私はたぶんかなり健康です
歯が悪いのだけ問題だと思います

でも
健康すぎるとどうも恥ずかしい気がするから
眠れない食欲がない性欲がないと
医者には言っておくつもりで

あのひとがいなくても生きてゆけるていどに私は強いけれど
あのひとのことを考えずにいられるほど強くはない
とはいっても
いつもあのひとのことを考えているわけではないから
たまには大目に見てやってほしい




自由詩 夏の朝、午前5時半、 Copyright 佐々宝砂 2004-08-04 05:33:57
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