キミノコエ
千月 話子


今日 キミの夢を見た
もう居ないくせに
「いつも見てるよ」と言うのだ

薄曇の外光が窓から入り込んで来て
中途半端な空間を作るので
夢の端っこを掴んだまま手放そうとせず
意識が行ったり来たりしている

その続きが欲しいんだ
丸まった身体のまま身動き一つせず
手の平で大切な言葉を拾い集めて
胸の中に仕舞って眠る




自転車で通り過ぎる若い男の背中に
「行かないで・・」
という言葉が乗っていた
心なしか安定の悪い車体
まもなく転倒するのだろう

切なさと幸福が
私の両肩で水のように揺れている
今日は低い段差によくつまづくのだ

アンバランスな身体の重さを調節して
うまく歩く事を覚えなければ
と 思いながら
自分の姿をガラス越しに映してみる

ほの暖かさが胸の奥からやって来て
身体が右に傾く
キミの面影が強くある方だ

キミが愛しかった
自分が愛しかった




空を戯れる二羽の小鳥が
戸惑いもなく高い声で鳴く
「好きだよ 好きだよ」と

私達には ただの音でしかないのだけれど
羨ましいんだ
人の声では直接過ぎて

隣にキミが居ない
手の平を添えて
愛を伝える事も出来ない
なら

今日 キミの夢を見よう
もう一度 声を聞かせて

今日 キミの夢を見よう
幻想の生き物になって
・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・
私達の 声
なんて 優しいんだろう







自由詩 キミノコエ Copyright 千月 話子 2008-10-24 00:02:28縦
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