水源
縞田みやぎ

 


そこまで行くのは ずいぶんだったよ
道があるとかないとか もうそんなんでなくてね
靴は 靴はまあいいのを昔買ってあったから
こう こうさ ざばあっと こう かきわけていくと あるわけよ
ほら

私らのまちは潮のにおいがする
といえばきこえがいいのだが 夕べには
うええともよおすほどの 磯臭さだ
このまま コンクリートを一キロも歩けば ひらけて
正しく 海であると知れる
宅地用の私の靴は ぱたこぱたこと 鳴った

受ける形にして 両手を合わせる

こう こうさ つめたくて きいんとすんだよね
うまいとかうまくないとか もうそんなんでなくてね
ああ このために歩いてきてよかったなあーっと
うわーって まあ そんな味なわけよ
信じらんないよなあ この川だぜ この川

つい ついと 杭の群れが突き立ち
枯れ落ちた茎やらが 寄り合っている水面
岸の草の根に近く 小さなあぶくが 連なっていく

信じらんないねえ そりゃあ

ぱたこ ぱたこ と コンクリートを擦って
私の足は 湿り気を帯びる
この堤防はむかし 何度も切れたのだという
何度も 何度も 人が死んだのだという



海って わけわかんねえなあ

そうだね



結局 海の見えるところまでは行かずに 堤を降り
生協でエコバッグを買った
帰り道には 古い魚のにおいがするので
もう夕暮れなのだと知る

わけわかんねえなあ

そうだね



そうだね


 


自由詩 水源 Copyright 縞田みやぎ 2008-09-28 16:12:21
notebook Home 戻る  過去 未来