映画館を出て、海に泳ぐ。
たちばなまこと

海の中にいた
ここは地球なのだが
靴を脱いでいるから
地に足が着かず
やわらかい席の
おしりの感触が消えそうで
前の席の 男の子 女の子
野鳥のさえずりに似ている

夏は タンパク質で膜をつくり
夏は 膜の中で見つめた
しめった風が過ぎていった
しめった深緑が
しめった象が
しめったヒトが
しめった肌が
過ぎていった

上澄みをすくう子ども
夢の中 黒い瞳
何度も吸いこまれて 何度も
吸いこまれては 立ち位置を
忘れた
ここは地球なのだが
地球ではない砂を 足は
噛んでいた

やわらかそうな女の子が
魚の表面張力の上を
走る 海の中から空気の中へ
息をしている私も
海の中

カシスのグミから甘ずっぱい血をもらうと
真っ暗な知らないヒトで満ちた
海にも 生きていることを
思い出せていて

恋や唄が止めば
あの人のように男の子を抱きしめる
ヒトに
ポップな色彩のキャンディーパックから
もう一つカシスを選ぶ



自由詩 映画館を出て、海に泳ぐ。 Copyright たちばなまこと 2008-09-14 19:10:10
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