おかえり
たちばなまこと


心臓が集まるとファンタジーになる

初秋に夏をふり返る日
スパイスをスプーンいっぱいほおばるような
日常のすてきな刺激のような
心臓がより添うときを
見たような日

旅から戻ったベクトルたちが
それぞれの誰かに語りかけている
私ならあの人に

心臓がどこかに 忙しさに遠のく
手が届くのに遠く 飛ばされていたような
そんなここち
皆が還ってきたようなの
また ファンタジーが廻りはじめて
光のまぶたのネットの向こう
友だちたちが
ほてる手をくれたようなそんな
ここち
けれどもね
左を向くと背中が見えるの
ダイヤモンドは欠けてしまうと流星に
なってしまうのかな
アスファルトで手を振る
伊達めがねの人に泣きついたりした
けれども
けれどもね

まだ 日の長い午後5時 空の青に
東の空の青に まっさらな入道雲を見上げ
駅の前 商店街 女の言葉をきいた
「東京の空が、壊れちゃったんじゃないかしらと、思うの」

また 思うのは心臓のことで
声をかければ来てくれる人がいるの
遠くにも 思い出してくれる人がいるの
この まだ 得体の知れぬ大きな家の
私が家長じゃなくっても
短い両の腕を拡げて待っている
おかえり
おかえり
おかえりと



自由詩 おかえり Copyright たちばなまこと 2008-09-09 00:19:17
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