月下怪談
千月 話子

琵琶の鳴る 能楽堂の床板に
今宵 満月の光り溢れ
ばちに当たる 光り雫 飛び散り
聞き入る人々に 幻想を
降りかけては 歌い
掬っては 奏でる・・・・


齢 19のわたしの帯を
力ずくで引き剥がした 男を今も
憎んで 探して 震える白い手

「わたし、死んでしまったの?」
「愛しい人に、もう会えないの?」
お前のせいだ! お前のせいだ!
汚れた黒い手  お前のせいだ!

見えぬ涙は 辻占いの
結果をいつも 沈めて変える
「占い人に 罪は無い」と
寺の 仁王立ちに戒められた

強い思いは 地中に掴まれ
会いたい人にも 会えないと
泣いて 泣いて 泣いて 泣いて
足を切られた 幽霊は
和菓子問屋と 呉服屋の 
壁の隙間に 身を置いて
仁王様に 言われた通り
108人の 危うい女を助け続けた


暗い夜道は 気をつけなさい 
悪い男が 出向いて来ますよ
逃げ切れないなら お隠れなさい
柳を揺らして 囲ってあげます
白い腕が 隙の魔から出でて
男を スーっと虜にしますよ
男を スーっと取り込みますよ

罪作りは 睨まれて
震え上がって 逃げ帰るけれど
それでも聞き分け 無いのなら
夜な夜な 寝汗で溺れるがいい!
後はどうなと 知るもんか!!


あれから 何年経ったというのか
透き通るような 青白い月 12月31日
寺の鐘の音 108っつ鳴らされた
「わたしは、もう行って(逝って)いいのですね」
弔いの鐘が 辻々に染み渡り
不穏な足音も 揺らめく灰色の影も
細い腕も 霞取って
ただひたすらに 月光の夜を生み落とす
終焉と 始まりの刻


悲しい女の 救いの歌を
歌え! 琵琶の音
震える 弦で
じゃらん じゃらん と
鳴り 響け!
 
 


自由詩 月下怪談 Copyright 千月 話子 2004-07-25 23:40:04
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