ギラギラの爪
佐々宝砂

ウツムイテナメルアシが玄関先まで来ているらしい。
夜だからなと思いながら玄関の灯りを消し、
錠をかけて小さな覗き窓に片目を当てる。
何も見えない。
明日の朝、ウツムイテナメルアシの、
いつもの静かな贈り物が見つかるだろうか。
ウツムイテナメルアシの姿を見るのはあきらめて、
わたしは台所でそうめんを茹でる。
ソラニトケル山で採ったヤマドリノアシを細かく刻み、
冷水で洗ったそうめんにふりかける。
ヤマドリノアシは少し辛くて、少し渋い。
ひとりで食べるそうめんは冷たくて淋しくて、
だけどなかなかおいしかった。
そのうち夜も更けてきたから、
左の小指の爪を研ぐことにした。
わたしの爪はいつになくglitteringで、
鍵のかたちをして、
ぴったりはまるはずの何かを待っている。
やすりで削ると銀色の屑が新聞紙の上におちる。
もう秋だなあと思うけれどまだ暑い。
網戸のむこうに暗い影がうごめく。
ウツムイテナメルアシがまだいるんだな、
早くおかえり、
ウミニトケル山へ。
ヤマドリノアシみたいにそうめんにかけて食べてしまうよ。
glitteringに尖った爪を蛍光灯にかざすと、
影はゆっくりと去っていった。


自由詩 ギラギラの爪 Copyright 佐々宝砂 2008-08-31 23:48:25
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