考えるひと
恋月 ぴの

ねえねえと肩を揺すっても
寝たふりしてたはずの
あいつは
いつの間にか深い眠りに落ちていて

久しぶりに触れ合いたかったのに
わたしのこころは
ちょびっと傷ついてしまった

それでも癒せないほどではなくて
背中合わせに丸くなったら
友だちと出かける小旅行に思いを馳せてみる

わたしの横で歯ぎしりしているひとよりも
ずうっと付き合いの長い
おんな友だちと出かける温泉旅行
相模湾を望む素敵なお部屋と
食べきれないほどテーブルに並ぶ海鮮料理

愛するひとと触れ合う
肌と肌を重ねあう
子供は作らないって約束してるので
子孫繁栄って訳じゃない
お互いを知り尽くしたふたりだから
今さら興味本位なんてことも有りえない

何のために触れ合うのかな
どうして触れ合いたくなるのかな

友だちが選んだエステ付きのパック旅行
すべすべになった頬を突き合い
露天風呂を堪能したなら
ぱりっと糊の利いた浴衣に袖を通してみる

やっぱビールでしょ
きゅんと冷えたビールでまずは乾杯なんかして
近況とか報告しあいながら
空いたビール瓶がテーブルに並びだす

おんなふたり酔いが回るにつれ
ここだけの話しだからを連発しあって
酔い覚ましに開けた窓からは
初秋らしい涼しさが頬の赤さを癒してくれる

あっちの方とかはどうなの
あっちねえ

ご無沙汰同士ってところかな

踊り子になった気分で天城峠越えてみようか
何だか出会いあるかもよ

手すりのついたベランダに出てみれば
遠く漁火が瞬いていて
どこか遠くへ行ってしまいたくなるけど

あいつおとなしく寝ているのかな

疲れたと寝たふりが得意で
歯ぎしりがやけにうざったいくせして
不思議と触れ合いたくなるあいつのことが気になった





自由詩 考えるひと Copyright 恋月 ぴの 2008-08-29 21:35:40縦
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