夜、視力
嘉村奈緒


  夜の頃
  いよいよ視力を盗まれて 往生する そう幾つもない階段を
  丁寧に降りていく 16,17,18,19,と数えていった
  山の神様が 遠い方からしょっぱい種を飛ばし
  加速しながら降りていく 彼らはささむけながら
  華麗に着地するまで むけながら 白く
  白く
  

  冬眠の方法を教わることもなかったし 林立する犬張子
  お前は小さい前倣えをしながら地道に けれども誠実な縮め方だ
  ささむけている種を 視力が盗まれていなければ
  私が拾い上げてそっと土を被せたというのに
  この目 夜の 数えている階段を
  子どもたちの嬌声が突進してきて 散り散りになる
  犬
  張子(16,17,18,19,とささむけていったあの白い種から悪いものが出るのかも)
  山裾を引きずるような抗いがたい松明の一行
  (悪いものがひとつずつ消して行く)
  そうしてこの夜 確かに降りていたはずなのに
  てんでばらばらになったお前は
  破けたまま
  これから濡れるにまかせて 辛抱強く過ごすというのか
  

 


自由詩 夜、視力 Copyright 嘉村奈緒 2008-08-28 19:53:13
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