(とびたつしゅんかんのとりのかたちの)
なを

わたしはかつて
とてもあまくて湿った土から生えて
花を咲かせることをゆめみた
猫が足元におしっこして
とてもあたたかくてしあわせだった



ちがう土から生えてそだつわたしたちは
たがいに手もつなげないくらい
とてもとおい国にいる
わたしの足もとのあまい土と
あなたの膝までうめるにがい土と
どちらがきれいな花を咲かせるのでしょうね
と、ささやく
(でんわをするてがみをかくめーるをおくる)

聞こえる?



六月の
雨の日々のはざまの
さらさらさら、と乾いた空気の
階段
そのいちばんしたにそっと座る
片目の潰れた猫とからっぽの駐車場にいて
魚肉ソーセージをわけあってたべる
なまえも知らない
(とびたつしゅんかんのとりのかたちの)
花が
ほら、わたしの枝に
咲いているのをゆめみる
わたしの産んだのではない子供たちの
声は、あの、電線のあたりで消える



いまここにあるものだけでみちあふれて
たりないものが思いつかない
蜜とミルクのようにみちあふれて
かきむしるてのひらからあふれる
黒い髪の流れるようにみちあふれて 
たりないのはなに
たりないのはなに
いまここにあるものだけで
みちあふれて
たりないのは

聞こえる?



ほら、
あの、とびたつしゅんかんのとりのかたちの
あんなふうにきれいな花





(初出/「miel」藤坂萌子発行)


自由詩 (とびたつしゅんかんのとりのかたちの) Copyright なを 2004-07-23 21:04:38
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