季節は生まれたりしないのに
たりぽん(大理 奔)

公園で蝉の骸を踏む乾いた音に
夏の日差しが醒めていきます

夏は生まれゆく季節ではなくて
燃え尽きていく黄昏だから
皮膚の下を流れるもののような色で
手の届かない場所へ
沈んでいくのです

手に入れるためと言って
カレンダーを切り刻んだあの頃
流れ出すものもなくて
蝉の羽根のように
乾いたまま
散って

夏の声がこだましても
もう蝉の骸は踏まないのです
歌い尽くしたとしても
その声を聞かないのです
切り刻めないカレンダー
井戸のない手首のように

新しい季節に湧き出すでしょうか
この手を洗うための鮮烈な
朝の木漏れ日を反射する水面の
あの真新しさが欲しいのです

きっとけがれながら、あらいながして
わたしのてとあなたは
おなじようにけがれたまま

夏の日差しが醒めていきます
埋もれていた季節が
生まれたふりをして
皮膚の下に流れる絵の具で
緑を奪っていくのです
切り刻んでいくのです




自由詩 季節は生まれたりしないのに Copyright たりぽん(大理 奔) 2008-08-17 01:39:03縦
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