モノクローム街道
紫音

日めくりカレンダーを
まとめて捲るように過ぎる
感傷さえ許されぬ日々
疲れた旅人の
マッチ棒のような細い足
先を急ぐ大きな目
アリのように小さく
ゾウのように大きく
いつもそこに壁がある

藍墨茶の空
烏羽色の海
視界のモノクローム

交じり合い鬩ぎ合い
人の形を失いながら
フランス人形を握り締め
旅は果てなく続き
歩みは遅々として進まず
砂丘に足を取られ
ガスの霧に溺れ
絡め捕られる人の成れ果て

不器用の持つ切れない鋏
余計なものを切り刻み
何も得ることなく
やがて諦めゆくとして
それでも足は
一歩ずつ前へ
もしくは四つん這いで
一手ずつ後へ

輝かしい明日もなく
虹色の夢もなく
電子回路のノイズに追われ
感情を還元し
データ化し
解析する





時の何かは
汗と共に流れ落ち
水溜りとなって
渇き散る

遠い向こうの
顔知らぬ人の不幸よりも
目前の壁を叩く
薄皮は破れ
とめどなく血が流れ
それでも

それでも


それで?




コインの裏表のように
誰も気にせず
時として間違っているとしても
大切であればこそ
旅路の道連れに
血の澱みとともに
ぷっくりと膨らんだ血管が
破れて裂けて
偽者の金髪を染め上げ
無い答えを探す


***


始まりはいつも些細なことで
きっかけはいつもくだらなく
あたり前があたり前として
ただ
そこに
線を引く

一線

超えるべきか
越えざるべきか
迷うほどもなく
知らぬうちに破る境界
意味も価値もない教戒

蔑みの視線の矢が
その手を柱へと打ち抜き
折れかけた足を
網が掬っていく
救いなき日々
線を引かれ
破るだけの日々


苦味はコーヒーのようで
渋味は抹茶のようで
飲み干したため息の数は
輝く星よりは少なく
草原の花よりは多く


一晩の安らぎは
明日の苛立ちを産み
際限なく連鎖する




壁など登ればよいと
気づいていても
知ってはならないことだから
壁を叩き続ける

ふと現われる
扉を掴むために



枕などない眠りを胸に
旅は続く



似合わないテンガロンハットに穴を開けて


自由詩 モノクローム街道 Copyright 紫音 2008-08-08 13:18:13
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