蜃気楼
紫音

川縁の土手の上
砂利道がザクザクと泣く
バットを持った集団
野球
ではない


唐突に囲まれる
幾人にも
財布もなく
時計もなく
なんら渡すものもなく
そんなことはわかっていたのだろう


目付きが悪い
それだけの理由
殴り甲斐もないらしく
威嚇だけの時間が過ぎる
そして解放



すれ違い様
生意気だ、と
言われた理由も
目付きが悪い
のだと



視力だけの
せいでもないのだろう
日差しに負けた
伏し目のせいでもないのだろう



きっと
目付きが悪いのは
性格のせいで
生意気なのは
性格そのままで
くだらないと感じたままに
目が語るのだろう


侮蔑を隠すでもなく
投射するのは
小石を投げるのに似て
相手の脳裏に
波紋をつくる



それでも
殴られるでも
いじめられるでもなく
まるで居ないかのように
過ぎてゆく
無視するほどもなく
周囲の世界に
自分はいない


たまに現れると
鬱陶しいので
ちょっとだけ絡むが
すぐに「居ない」と気付く



だから

世界を傍観する

諦観する


そこに
不在だからこそ



町行く人波に
飲み込まれながら
隔離し隔絶し



居場所がない
わけではない
から
こそ

炎天下
晴天下

ホログラフィーのように
抹消され気付かれざる自分を
投棄しよう



外在の不在として
不在の内在として



雨粒が降るように
砕けた先に
何も残らないように



蒸発し


やがて世界を挑発し


その無反応を



笑い飛ばそう




川面に浮かぶ
コンビニ袋ほどには
気付かれることも
ある

だろう


自由詩 蜃気楼 Copyright 紫音 2008-08-07 22:59:14
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