思い出迷子
虹村 凌

何も考えずに叩ききった發を見て
彼女は少しだけ微笑んでいたのを思い出した
東京の空には星か輝いていて
中央線はとても込んでいて
君は椅子に座って本を読んでいた
「家に帰りたくない」
なんていう勘違いしそうな台詞を
上目遣いで言ったのを覚えてる
でも君が読んでいた詩集が何だったか
ずっと思い出せずに居る
不思議ハウスを建てる予定も未定のままで


渋谷のジョナサンでシンジは言ったんだ
「彼女の写真を持ってるよ」って
何の写真か聞いたら
「20歳の時に撮った写真」って言うんだ
体が綺麗なうちに残しておきたいって言う希望を
シンジは叶えてあげたんだって
その事実は俺を殺す事だって出来るのに
いや君が殺される事だってありうるのに
それに気付かないとでもいうのかい?
君の低い体温を知ってるだけでも
幸せとしておくとでも思ったかい?
渋谷の空は曇っていて
星屑みたいに雨が降ってて
それでも彼女の美しさが残ってる事を
少しだけ安心した心持でいられた


境内で煙草を吸ってる俺を
少し離れた場所でワタナベと一緒に並んで見てる
嫌そうな目をして
嫌そうな目をして
女子高生だった君はピースを吸ってた事を
ワタナベが知ってるか知らないかなんて事はどうでもいい
ただ俺は何でワタナベがいるのか理解出来ずにいて
それは夜になってもずっと理解できなくて
夜のブックオフで覚悟ノススメを手に喜ぶ二人を
遠くから眺めてたんだ
ずっと理解できないまま
ずっと理解できないまま
何を手に取ったかも覚えていない


変なオジサンの自転車の後ろについてる子供用座席に載せられて
何処か遠くへ行ってしまえばいいのに
きっと一人で帰ってこられるでしょう
何も無かったような顔をして帰ってこられるでしょう
あなたがもし振り返ったら
もう一度キスしたい


自由詩 思い出迷子 Copyright 虹村 凌 2008-08-06 23:02:50
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