夏の日
紫音
五年前
路面が煮え立つほど暑い夏
プールの栓を抜いたような夕立
の
中でぼくは
キミの嘘を受け止めた
小さな嘘
あまりに小さいから
雨上がりの水溜りに
そっ
と
浮かべてみた
三年前
ビルが蕩けて見えなくなるほど暑い夏
お風呂の栓を抜きながら夜
に
空を見上げて
キミの嘘を飲み込んだ
ちょっと大きな嘘
ノドの奥に引っかかるから
うがい薬と一緒に
ぺっ
と
吐き出してみた
一年前
不思議と涼しい風が心地よい夏
コーラの栓を抜いたような爽やか
な
日差しの中にぼくは
キミの嘘を忘れていた
すっかり消化して
しまったものだから
思い出すこともなく
ほっ
と
一息ついた
つい昨日
屋根の上で目玉焼きが焼けるほど暑い夏
固く動かないコルク栓を抜くようなひどく疲れた日
の
終わりにぼくは
キミの嘘と交じり合っていた
大きな嘘
大きすぎるから
見上げても見えない水星のように
すっ
と
夢から消えていった
じゅー
キミをぐちゃぐちゃにして
引き裂いて
その
どろどろ
に
流れる様を
笑いながら
食べてしまいたい
じゅー
目玉焼きの中に封じ込めた
キミの嘘
ぐちゃぐちゃのどろ
ど
ろ
に
そんなキミが
目玉焼きになって
夢の中に現われて
名前すら呼べなかったのは
なぜだろう
もう
覚えていない
キミの名前
どろどろのキミは
どくどくと脈打って
とろとろのキミは
あつあつの目玉焼きで
白い皿の上の
目玉焼き
を
ぐちゃぐちゃにして
絵を描けば
なんとなく憂鬱な
この今という時間を
箪笥の防虫剤くらいに
気にしなくて済むだろう
か
ぐちゃぐちゃにして
絵を描けば
洗い物という後悔が
微笑んでいる
自由詩
夏の日
Copyright
紫音
2008-08-06 20:33:54