ウエハース島の思い出 7  〜割り箸〜
よだかいちぞう

割り箸が均等に割れたら両思い
そう願って女の子は割り箸を割った
みごとに均等に割れた
そのときの女の子の表情を
思い描いてほしい

きっととてもいい顔をしていると思う

この物語とは関係ないけれど

そのときの女の子の一瞬の表情を
思い描いて
この物語の最後を見てほしいと思う

割り箸のささくれのような物語を
ぼくを殺した彼女が作ってくれた物語を

女の子の曇った顔を思い描かずに



アルルコールとリタは
トレドさんの家を出て
島が沈むない方法を見つけるために
研究所に向かった

研究所の前には子供たちが集っていた
アルルコールとリタは
何をしに集ってるの?
と、子供たちに聞いてみた
子供たちの一人がこう云った
「知らないけれど
ぼくたちは集らないといけないらしんだ
誰が集ろうと云ったのかわからないけれど
ぼくたちはいま集ってるんだ」

アルルコールとリタは
研究所の中に入って
研究所の職員と話をした
「外に子供たちが集っています
なにがはじまるんですか?」
アルルコールがそう職員に話すと
職員は云った
「我々の研究は最終段階に入りました
これで我々の研究は終りを迎えるのです
子供たちにはいま飲み物を与えるところです
子供たちにあげる飲み物ではありませんが
オキシドドール博士が研究していたものが
まだあります
これをあなたたちが飲んでもらえれば
オキシドドール博士は喜ぶかもしれません
どうです
飲んでみますか?」

アルルコールはどんな飲み物なんです
と、職員に聞いた
職員は「それはわかりません
オキシドドール博士が
研究していたものですから」
と、答えた

リタは「飲んでみるわ」と答えた
それは、研究室の冷蔵庫から取り出された
ビーカーに入っていて
緑色したメロンソーダを濁したような
そんな飲み物だった

「アルル、私がこれを全部飲むわ」
その飲み物はビーカーに1/3程度残されていた

「ぼくも飲むよ」と、アルルコールは答えた
リタは云った
「たぶんこれは一人分の量だわ
オキシドドール博士が
私が飲む分として残しておいたのよ
アルルは、私がこの飲み物を飲んでどう変わるか
ちゃんと見ていてほしいのしっかりと
私が何か変わってしまうかもしれないけど
見守ってほしいの」

アルルコールは少し考えてから
それに頷いた
「ちゃんと、見守るよ
それにリタはどんなになってもリタのままだよ
ぼくはリタとずっと一緒さ
この飲み物でそれを証明できるよ」

リタはアルルコールの目を見た後
ビーカーを持って一気に口の中に傾けた
飲み物はリタの口の中に流れ込んでいく
アルルコールは、それを心配した様子で見守った
リタは空になったビーカーを
机の上に置いた
「大丈夫かいリタ?」
リタは云った
「とても口の中が甘いわ
でも、まだこれからだわ」
アルルコールは云った
「ぼくがちゃんと付いてるからね」



ぼくはどうやら冷蔵庫の中から出られたみたいだ
出るときに部屋を窺ったのだけれど
物語を作っていた彼女は首を吊っていたよ
どうやらぼくたちは
発見されたらしい
とてもすごい異臭を放っていたのだろうね

でもぼくはもう少し
彼女の作る物語の続きをみたいんだ
彼女もそれに同意してくれている
だからぼくたちここに残ることにしたんだ
物語を最後まで見届けるために



「ここは現実ではないのアルル、
私は博士と一緒にあの男を冷蔵庫に閉じ込めたの
それが私が忘れていたことよ」
意識を失って長椅子に横になっていた彼女が
意識を取り戻したのはほんの数分だった
「リタ、大丈夫かい?」
身体を長椅子から起こしたばかりのリタは答えた
「大丈夫」
アルルコールは
リタが平気そうなのを確認してから
こう訊ねた
「どういうことだい?
なにが眠ってる間にあったんだい?」
リタは云った
「アルル、よく聞いて
私は忘れていたことを思い出したわ
あの飲み物はそういう飲み物だったの」
アルルコールは云った
「博士となにが有ったんだい?」
リタは云った
「博士と一緒にあの男を冷蔵庫に閉じ込めたの
どんな男だったかは思い出せなかったは
でも、それは重要なことではないの
そのことは私たちと関係ないことなの
アルル、よく聞いて
ここは現実ではないの
それから忘れていたことで
いちばん重要なことを話すからよく聞いて
私たちは作られたものなの
この島も
この島の人たちも
私とアルルも」
アルルコールは云った
「ぼくたちが作られたものって
どういうことだい?」
リタは云った
「アルルも私も
島の人たちも
すべては思い出から出来てるの
そしてここの研究者たちは
みんな思い出を研究していたの」
アルルコールは云った
「でも、ぼくたちは変わりないんだろ?」
リタは云った
「ええ、そうよ
私たちは私たちのまま
何も変わらないわ」
アルルコールは云った
「それならいい」

外から子供の一人が
アルルコールとリタに近づいてきた
子供が「苦しいよ」と云ってきた
リタは云った
「どうしたの?」
子供は苦しい声を出しながら答えた
「飲み物を飲んだんだ
そうしたら苦しくなったんだ
みんなも苦しんでる」

アルルコールとリタはその子を連れて
外に出てみた
そこには
悶え苦しんでる子供たちが
そこらじゅうに倒れ込んだり
叫んだりをしていた
研究所の職員たちは
それを観察するように眺めていた
アルルコールは職員に向かって云った
「どうして助けないんです?
あなたたちは何を子供たちに飲ませたんです?」
職員の一人が冷たい口調で答えた
「毒薬です」
リタは云った
「なんでそんなことをしたの?」
さっきぼくたちと
飲み物のことで会話をしていた職員が答えた
「オキシドドール博士は間違っていました
子供たちをすべて殺すべきだったのです
週に一度の紙芝居なんて意味がなかった」
アルルコールは云った
「助ける方法はないのですか?」
職員は溜息を付くように云った
「もう手遅れです」

アルルコールとリタは
手を強く握り合って
子供たちが苦しんで死んでいく光景を
二人で見詰めていた


自由詩 ウエハース島の思い出 7  〜割り箸〜 Copyright よだかいちぞう 2003-09-11 18:37:52
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