縞田みやぎ

 


祭日からあふれて ころげた人々が
やたらにぬらしたので
台所に立つのは ずいぶんひどい
はだしか靴ならばとも思うが
僕は あたらしいくつしたなので
戸口のところからのぞいて
とりにいかれない たべもののことを考えている

人々は 大きな体をして
仕事をおえた風に ずいぶん
肌がべたりとしている
もう 靴をはかないのだろうか
おまえがつかんでいるのは
今日のかせぎか
昨日のかせぎか
くえるものか たべられるものか
くちにいれられるものか と
いろいろなことばで せわしなく
くちびるがなめられている

台所じゅうで
びしゃ と 音がする

僕のてのひらがかわくのは
いつのまにかにぎっていた
小麦粉だか何だか の せいなのだ
先からかわくのは 
知っていたが すこしずつこぼれて
もう手のひら分なので
それはいきていく糧には おおよそ
かかわりのないものなのだ

引き戸をかた かたとゆらし
鼓動している
ひもじくはないのだ僕は
ひもじいのではないのだ が

台所からはねらかされた水が
もう ここいらまでかかり
人々はいっそうの汗をかいて
うずたかく重なりはじめている
それはくちにいれられるものか と
むけられたのは
てのひらだったのか
くちびるだったのか
へそのおだったのか

息をするたびに上下した

僕は手をふらないようにして
戸口をはなれる
玄関をでるころには
背がひどく丸く
それでも 上ばかり見るのだ
ずいぶん走ったように思う
わきばらが狭まるようにして
ひり と いたむのだが
ふりかえるとまだ 台所のまどから
こちらに目がむけられている
せわしなく動くので
まだ
たべものが見つからないのだろう

日が高く 通りには
僕のような風体のものは あるいていない
人々は 靴をはいたり
はだしのまま あるいたり
だまったりいろいろと話したり
うつむけたりあしもとをさぐったり している
僕は靴をはかずにいたので
くつしたに砂がかんだ
にぎった手が汗ばんでいるので 広げると
もうひとつかみさえない てのひらのたべものが
すじにそってはりついている
それはひどくべたりとしててのひらは
息をするたびに上下し
僕は
上ばかり 見て

ひもじいなあ と
まるで にんげんのように
ことばを話す


 


自由詩Copyright 縞田みやぎ 2008-07-17 23:18:45
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