鯨が枯れる(reprise)
mizu K



夜の水族館の部屋、真夜中になれば魚たちは
いちど死に朝になればまた生まれるのだと信じていたころのこと
累々とおびただしく規則正しく折り重なる
自分らの死体を夜の部屋に想像し眠れぬ
死体の数を数えていた

潮が引いていきました

砂浜が徐々に太陽の光に乾いていく砂は徐々に
粘着力を失いさらさらと砂丘を流れる波
風紋をつけて空へ飛びたった砂粒のかけら
ひとつ吸いこんで

鯨が枯れる

生捕りにした植物を夜の部屋に置く
植物は時間が経つに従ってその生気を失い
また重なっていく夜の水族館の部屋
かたくなに信じていた真夜中の魚たちと違い
生捕りにした植物は朝の清々しい光のなかで
しおれしなびたおれ折り重なっていく散らばっていく
床に乾いていく植物の足あと、てん、てん、てん
彼らの通った先には濡れた後ろ姿がありました

鯨が枯れる

ある標本を収集し保存している博物館が
夜の砂時計の落ちるかすかなさらさらとした音に
時の堆積量に耐えきれず柱が
徐々に滑り出していく壁がやや一時間前と
位置がずれ
始めている時刻、夜の人々、多くの水族館の部屋

大展示室Aに飾られた鯨の標本が少しずつ崩れていく
夜のうちに少しずつ崩れ流れていった鯨の骨は
夜明け前にうずたかく堆積した山のよう
大展示室Aにはそのとき鯨の標本は存在しないただ
ぽっかりと空いた空間を風たちが走っていく
ものみなすべてを風化させる風

砂漠にぽつりと取り残された鯨は
海への帰り道がわからないままそこに横たわった
もう刻々と変わる風紋の矢印を道標に
する必要はないただそこに横たわればよい
いずれ大きな風が鯨を海へと運んで
くれるだろう

鯨が枯れる





自由詩 鯨が枯れる(reprise) Copyright mizu K 2008-07-04 01:57:35
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