aerial acrobatics 12
mizu K



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ブラック・ジャックのエピソードに
すきな人が帰宅するのをずっと後ろから見守ったり
雨降りにさりげなく傘を置いておいたりする場面があって
それに気づいた想われ人さんは
まあすてき、となって
(当時はまだストーカーってことばはなくて)
そしてそれはなんともすてきな恋の話と切ない結末
昼休みに図書室のストーブのそばで読んでいた私の
頬がほてっていたのは決して
ストーブの熱のせいだけではなかったろう

外を見ればちらほらとまっ白な雪
それを遠いまなざしで眺めていた私のなかで
はっと何かがひらめいた
ですからどうかこのまま降ってくださいかみさまほとけさまゆきおんなさま
と雪に願いを

ホームルームの後いちばんに教室を飛び出してげた箱に直行
未来の妻の靴入れのところにさもさりげなさそうに
傘(ネーム入)をひっかけておいた
これで、これに気づいた未来の妻は... ふっふっふっ
と降りしきる雪のなか私は口もとが緩むのを押さえきれず
ふっふっふっと帰宅の途につき
その夜、高熱が出たのは
妄想しすぎてコーフンしすぎたからではなく
単に風邪だったのだと思いたい


***


ぞうきんをしぼるバケツの水がやけに冷たいなーと思っていたら
うわーっ、そと!そと!
タマミミの声に窓を見ればあんららら
けっこうな大雪になったかも
あちゃー、傘忘れたー、とか
帰れるかしら、しんぱい、ぐす、とか
ああ、イザベルよー、僕は君をー、永遠にー、ぎゅうぅ、とか
いろいろな声がしている掃除時間
このくっそ寒いのにたぶん職員室はぬくぬくなんだろう
職権乱用だぜ、こんちくしょう、とひとりぷんぷんしつつ
廊下をだーっとぞうきんがけ、つめてー

さて、降ってはいるが帰るとするか
と準備していると
ねーねー、かえろーってタマミミがやってきたので
いいよーって一緒にげた箱まで
外、なんだか積もってるよ、これ
うっそ!明日、休校にならないかなー
ならないかなー
なー
なー(ハモる)
ねー、こういうときにさ、傘なくてどうしようって感じで立っててさ
横からすすっと「よろしかったら」って
すてきな方が現れたらどうする?
んー、そうねえ、未来のダンナ様候補に入れるわね、それは
でしょ、でしょ
とか喋りつつ
あれ?私の靴のところに傘かけてあるけどたぶん
だれかの親がまちがってかけてったんだろうな、と思いつつ
ふたりとも自分の折りたたみ傘をささっと取り出して
ひゃー、さむっ、って言いあいながらさくさく歩いて
帰ったことがあったっけ

あとから聞けば
それは未来の夫の傘(ネーム入)で
タグが傘のひだにかくれてしまってたらしい
見えるようにしときなさいよ、ばかっ





自由詩 aerial acrobatics 12 Copyright mizu K 2008-06-26 21:24:42
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