海蛍 (一)
銀猫

爪先で掻き分ける、
さりり、
砂の感触だけが
現実味を帯びる

ひと足ごとに指を刺す貝の欠片は
痛みとは違う顔をして
薄灰色に溶けている


こころの真ん中が
きりきりと痛んで
夢遊病、
もしくは
遁走、
それに似た列車を乗り継いで
夜を泳ぎにこの海へ来た

魚影を縁取る青白い海蛍と
黒い音を引き連れて
膨らむ水面
生命はそこここに散らばり
誰の存在感も
等しく消されている


音の無かった鼓膜に
夜、が響いて
生温いわたしの生命が目覚める

さりり、
砂、の音

ひと足ごとに
小さな赤が滲み
胸に蒼い火が灯る



自由詩 海蛍 (一) Copyright 銀猫 2008-06-22 14:37:15
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