1階のコインランドリー
山内緋呂子

青のジャージ、歯の抜けたおっさんが、にへにへ洗濯機回り、ゴミ置き場周辺を回っている。


アパート備え付けのランドリーな所で変質者はいつでも登場し、不動産屋が不正な自転車が置かれてないかと見廻りに来る。


不動産「あまり奥に引っ込んだら駄目よ。なんかされたらすぐ逃げるのよ。相手にしちゃ駄目よ」

そんな私はランドリーの終わる30分間を洗濯機の真ん前で本を読みじっとし、

不動産の「奥まってるとこじゃなくてこっちいらっしゃい。日向ぼっこしてるといいわよ」

と 為すがまま、不本意に陽に照らされる。
暖かい
いいのですか私
陽に当たっていいんですか

ねえ私、





また変なおじさんが、「寒いねえ」と話しかける。

日向ぼっことは言え民家の玄関前に座り込む私も変なおばさんだ。


不動産が「あの人?変質者ってあの人?」と問う


いいえ


もっと変な、

おじさんです。



このランドリーが12時半に回るのは、18時に約束がある為


おしゃれして行きたいのお願い

30分後洗濯機は止まり、あたしは部屋の温度を27度に設定し急いで干す。


会うのは1ヶ月ぶりだろうあたしは、

新しく買ったパウダージェルアイライナーで美しく、
あたしは
出来るだけ美しく、


お化粧を


母の形見の美しい幾何学模様の緑のコート

リバーシブルで真っ青

母のセンスに敬礼をする
ありがとうお母さん


只、ボタンが緑色も青色もほぼ全て、取れているの。

あたし、絶対にこのコートであの人に会いたいの

私、

きっと、

何度も私の姿を鏡に映す。



ボディソープや絵画が落ちて来た。


そうだよお母さん、私は報われない恋をしている

万物の全てが「辞めろ」と言うだろう。




もう、半乾きまでになったキャミソールとブラウスを着用する。風邪を引いたところで何だというのか、


彼に会えるのは今日しか無いかもしれない。

私の目の前で正面を向いて喋る彼、


風邪を引いたところでなんだというのか


予定より2時間も早く出て、ユザワヤで、抜けたコートのボタンと糸を買い揃える。


ベンチで私は50分かけてコートのボタンを全て揃えた
これで私の、

あたしの可愛いコートは、
あの人に見せられる品物になった。



変質者に警戒し、コインランドリーで本を読む
煙草を吸う

あの30分で、




私は今、


素敵なコートを手にした
もう何も怖くない
彼といる時だけが、
もう怖くない




あなたといるときだけがなにもこわくないなんて




あなたは困るだろう



私が1階コインランドリーの変質者に困るより、

ずっと、

あなたは困るだろう。


自由詩 1階のコインランドリー Copyright 山内緋呂子 2008-06-20 02:04:26縦
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