青いひかり       
前田ふむふむ



一面の草むらから、湧きあがる青い空。
向き合うわたしの窓は、青い空をもたない。
手にした一枚の写真を見て、
水を得た魚のように泳いだ海は、
黄ばんだ家族の笑顔のなかで、流れていた。
その傍らで、少年のような灯台を支える、鋭い岩に、
痛みを刻んだ、カレンダーの波が打ち寄せる。
随分と遠くに来たものだ。

しばらく、なだらかな坂を降りると、
水平線を引いた海が溢れて、
迷ったカモメが、わたしの靴先に止まる。
青いひかりに覆われて、
眩しく日焼けした海のなかの、夥しい海が、眼孔を洗った。

ひかりに遅れながら、息を高めて、
急な坂をのぼると、素足の、わたしの胸を透かして、
燃えるような季節外れの黄砂が、海の上に砂漠を描き始める。
うすい煙りのなかから甦る、薄化粧の書架の眺望。
鋼鉄の義足を引き摺って、
オアシスを網の目のように繋いだ風の青年も。
砂の上のみずをもとめて、興っては朽ち果てた、
ロプノールの花の夢も。
駱駝を草原に放って、空にとけていった牧童も。
わたしのなかで咲いている少年の瞳のなかで、
風船のように膨らんだ。

満ち足りていた午後―――。
海の上には、イスが向かい合って置かれている。
誰もいない冷たさを抱いた、
テーブルの上には、一輪の花がある。
淡いひかりが差し込み、レースのカーテンが揺れて、
大人びた静寂を眺めると、
ようやく、青い空が見えてくる。
心電図の波形のような空だ。
波は、不安定なリズムを刻んで、
夕暮れに飛び立つ、一羽の痩せた鳥を見ている。


自由詩 青いひかり        Copyright 前田ふむふむ 2008-06-19 01:16:58縦
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