ウエハース島の思い出 6  〜スーパーストロングガール〜
よだかいちぞう

ここでウエハース島の物語に戻る前に
ぼくのことを伝えておこう
ぼくはどういう訳だか冷蔵庫に閉じ込められている
それは
ある女の子にぼくが酷いことをしたからだ
ぼくはその女の子のことを殺そうとしたんだ
だけどどういう訳だかもみ合ってるうちに
ぼくの手に持っていた包丁がブスリと
ぼくのお腹に刺さったんだ
それでねその女の子はぼくを
冷蔵庫の中にしまったんだ

その女の子の名前を
なんて云ったか
いまとなっては曖昧でね
ぼくはその女の子を
ほんとに愛していたのかわからないよ
だけどその女の子は
とても強い女の子だったんだ
ぼくはそれをすごく印象的に憶えているんだ
名前よりも
その女の子がとても強かったことを憶えてる
だからその女の子の名前を
スーパーストロングガールとしておこうか
とりあえずぼくはその女の子に
冷蔵庫にしまわれたんだ

その女の子はね
いまとても困っていてね
だってぼくを冷蔵庫の中にしまってしまっただろ?
だからこんなことを思ったんだ
私はどこかの星の
どこかの海に浮かんでいる
何かでできた島で生活したいと
思ったらしいんだ
でも彼女は現実に生きているだろ
だから無理だとわかったらしいんだ
それにすごくお腹も空いていててね
なにか食べるものがないかと探してると
ウエハースで出来たお菓子がね
ちょうどぼくの入ってる冷蔵庫の上に置いてあったんだ
彼女がそれを食べてるのを見てね
ぼくは思ったんだ
ウエハース島の物語を彼女と一緒に作ろうとね

彼女もしばらく経って
ぼくと話ができるようになったみたいでね
ウエハース島の物語を私が作ると
云いはじめたんだ
ぼくはそれに同意してね
ぼくはその物語を
見守る役になることを約束したんだ
彼女はまだ物語を続けるそうだから
ぼくももう少しだけその物語の続きを
見守ることにしようと思うんだ

そういうわけで
ぼくは彼女の作った物語を
話していってるんだ

それでは物語続きを見よう
ぼくも彼女の作る物語が楽しみだから



リタは呼び鈴を鳴らした
けれどもトレドさんは出て来なかった
リタは不穏な空気を感じて
部屋の中に入って行った
そこにはトレドさんが首を吊ってる姿と
アルルコールが紫芋を食べ過ぎて
朦朧と宙を見詰めている姿が
二ついっぺんに飛び込んできたわけだから
リタは固まってしまって
声も出ないし
これからどう身体を動かしたらいいのかも
わからなくなったんだ

アルルコールがそんなリタに気付いて
「リタ」と、朦朧とした意識の中で呼んでみたのだけど
リタはそれでも
次に取る行動が何をしていいのか
それとも何をしたらいけないのか
とか、そういうことが
コントロールできなくなっていて
まだ固まっていたんだ
だけども、アルルコールの方へ
行けばいいんだという
昔からの習性
子供のときの記憶から
アルルコールの方へようやく
向かうことにした

アルルコールは床に座り壁に背中を凭れながら
リタにこう云った
「リタ、ぼくたちはずっと一緒だった
子供のときからずっとだ
ずっと君のことが好きだった
いまも好きだしこれから先も変わらなく好きだよ
だからリタぼくから離れないでくれ
過去や未来へ行かないでくれ
島が沈むことがわかってもぼくたちだけは変わらないよ」

リタはアルルコールの目を見た
アルルコールも目を離さなかった
「私は強い女の子だから平気だよ
君と一緒にいつまでも居よう
アルル、島が沈まないように
私たちが二人でどうにかしよう」

アルルコールは云った
「そうしよう島を沈ませないように
ぼくたちがなにかすればいいんだ」

アルルコールはリタの手を取った
リタはそのときこう云った
「好きだよ、アルルのこと」


自由詩 ウエハース島の思い出 6  〜スーパーストロングガール〜 Copyright よだかいちぞう 2003-09-10 12:57:08
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