中野アンダーグラウンド
1486 106

ビル前の長い階段を下りていると
劇団員の声出しが目に映った
軍服のようなものを着た団長は
大きな声で団員を叱っていた

スキンヘッドの若い男の子は
特に何度も注意を受けていた
他よりも努力しているように見えたが
サングラスのセンスから見れば主役にはなれないだろう

それにしても東京で生きるというのは
そんなに厳しいものなのだろうか
巨大スクリーン前のスクランブル交差点
行き交う人の群れはみな駆け足


そもそも私が中野に来たのは
路地裏に隠れたアートを探すためで
若手が描き上げた作品とはいえ
中には目を見張るようなものもある

公園のような広場に人だかりが出来ていたので
覗いてみるとワンピースの女性が弾き語りをしていた
声は島谷ひとみに似ていて
私は上手いとは感じなかったが
聴衆は何人も涙を浮かべていた

それにしても東京で生きるというのは
そんなに悲しいものなのだろうか
誰しも胸に傷跡を秘めて
それを撫でてくれる人を探している


家に着いたのは夜十時過ぎで
夕飯を買いにそのままスーパーへ出掛けた
3割引の惣菜を温めようと
電子レンジに並んでいると
前にいた四十歳くらいの女性が
店内の休憩スペースで弁当を食べはじめた

何故家で食べないのだろうか
家に帰っても誰もいないのか
家で一緒に食べたくないのか
余計な詮索が頭を過る

それにしても東京で生きるというのは
そんなに淋しいものなのだろうか
人は溢れるほどいるのに
繋がりあう術を知らない


自由詩 中野アンダーグラウンド Copyright 1486 106 2008-06-18 19:55:22
notebook Home 戻る  過去 未来
この文書は以下の文書グループに登録されています。
世にも奇妙な夢物語