喋る猫
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とある町に喋る猫がいた
人間の言葉を流暢に喋ることが出来た
人間の言葉を理解することも出来たので
世渡りがとても上手だった

人間はみな猫に優しくしてくれた
ただ言葉を喋れるというだけで
食べ物や住みかを与えてくれた
噂を聞いた人が遠くの村から
猫に会いにくることもあった

だけど猫は幸せじゃなかった
猫は人間の言葉が分かるから
人間が猫を利用しようとしているのが分かった
物のよう扱っていることも

だから猫は何度も逃げ出した
お金で売られてしまわないように
見せ物として繋がれてしまわないように
いくつもの町を渡り歩いた
いつしか猫は姿を消した
人々は次第に喋る猫のことを忘れていった

ある少年がかくれんぼの途中
森の奥で小さな洞窟を見つけた
小さな音が聞こえたので中に入ってみると
年老いた喋る猫がいた
横には小さな猫が三匹
少年は喋る猫のことを絵本で読んでいたので
目の当たりにしてもさほど恐がらなかった
好奇心が先行したんだろう

喋る猫は少年に話し掛けた
「私はもうじき死んでいくだろう
 この子猫達は私がいなければ生きていけない
 どうか私の代わりに育ててやってくれないか?」
そう言い残すと喋る猫は動かなくなった

少年は猫をニワトリ小屋のそばに埋めてあげた
少年は遺言通り三匹の子猫を連れ帰った
しかし親や大人達は誰も子猫を引き取らなかった
子猫は喋ることができなかったから


自由詩 喋る猫 Copyright 1486 106 2008-06-18 07:33:19
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