ウミネコ
プテラノドン

半世紀いきながらえた海猫の、オペラ調の鳴き声。
さっきまでベンチで泣き崩れていた詐欺師の男は、
両手じゃ抱え切れないほどの花束を手に、
明かりの灯る雑踏へと消えた。そして、
通り一本隔てた向こう、石畳の坂道に立つ彼の前には、
亡霊のための墓地が広がる。
地面には、
数百本のハイヒールの踵が突き刺さったままだった。
それから参拝者が残していった枯れた花束と、
雨でにじんだ手紙やごみ屑と化したそれらの間を往き来する、
生活に身を捧げる人々の呼吸と、
呼吸を止めるためにばら蒔かれた花々と、
見るに耐えかねた海猫の鳴き声と、いっしょくたの真昼に、
ヒールの折れる音がある。



自由詩 ウミネコ Copyright プテラノドン 2008-06-14 22:36:35
notebook Home 戻る