夜に溺れる
ミゼット


月光を手繰る振りをしていたら
どうやら海が釣れてしまった

窓を開けているんじゃなかった

部屋に溢れたいっぱいの海は
両手で抱えられる所かますます増えて
わたしは飲まれた

手を広げたまま
ごぶごぶと洗われて
部屋の中を流されるわたし

散々苦労して結ったシニヨンが
ゴムごと解けて広がった

水を通して歪む景色に
広がる髪の毛を重ねたら
網みたい
わたしがわたしを捕まえている

指の先を流れていくあのゴムは
仕事用のだから
無いと明日こまるなあとわたし

溺れ死んだらそれどころじゃない、と
わたしがもうひとり
腕を足を動かして
窓の方へ逃れていく

わたしの周りで海は球体を保ったまま
ぶるぶると震え景色を歪ませる

妙に重い水は
もしかしたら水、じゃないかもしれない

だって月光を手繰って取れた海だし
わたしの下手な踊りでも取れた海だし

紛い物、というよりは
偽物だ、というよりは
そもそも
海なんて名前をつけたのはわたし

そう分かったけれど
球体から逃げ出せない
そっちのわたしはすっかり参ってしまって
徒にもがくばっか

こっちのわたしはというと
息ができないんだけれど
このままだと死んじゃうんだけれど
とりあえず、
お腹へったなあと思った


自由詩 夜に溺れる Copyright ミゼット 2008-06-08 00:29:49縦
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