曖昧な情景の中で
千月 話子

広がる上空を囲むように
その日は 曇り空だったのですね

ゆるく波打つ 水面は
際に立つ 私達の少し後ろで
薄暗く 揺れていました

かと言って 私の心が
景色と 同調していた訳ではなく
少し肌寒い キリ とした風で
ぼやけた 灰色の輪郭を
切り取っていくように
私の気持ちを 凛とさせたのは
すぐそばに あなたが居たからです

愛でるように ゆるく微笑む眼差しと
じゃれるように駆け寄った 満面の喜び
慈しむ腕 溢れる体
それらが 優しく絡み合ったので
あまりにも 優しく重なり合ったので
ほんの数分の 交わりでさえ
思い出せば スプーンから
ゆるり落ちる ハチミツのように
甘く濃厚に 私の体へ流れ
今も 残っているのです

そのような 心象を
あなたも 同じように持っていたのでしょうか

数時間のちに ふと
裸眼では 殆ど見えない瞳を
真っ直ぐ私に向けたのは
何故 ですか

言葉にして 言い出せないまま
あなたの気持ちを 写し取るように
私は その姿を
写真に 納めてしまいました

出来上がった 映像は
露光が 強すぎて
殆ど もやに包まれた
曖昧な ものであったはずなのに
その中に 薄っすらと眩しそうに
目を細めて笑う あなたの
顔が ありました

不確かな想いは 伝えられずに
古い 写真の中
今も 名残を留めています

低く垂れ込めた 雲間から
いくつもの光りが 照らすように
思い出は 鮮明に
そこここに 溢れて
微笑みに 満ちているのです


 


 


自由詩 曖昧な情景の中で Copyright 千月 話子 2004-07-10 16:03:37
notebook Home 戻る  過去 未来