朝礼
縞田みやぎ

わたしはあなたの顔をつかんで
こじあける 歯型 の
わたしの腕を救いだす

床板をたたく あなたのかかとが荒い
並ぶまで屈めて 指先で
ちいさくバツのしるしをつくる
しい と
前歯で息を噛む

ごめんね
いま 校長先生のお話だから
ごめんね
まだ遊べないんだ
もうちょと
もうちょとだけ待ってね
ごめんね
みんなで朝の会だから
ちょとだけ
もうちょとだけ
がんばろうね
がんばろうね
ごめんね

体育館
壁のきわに こどもたちの靴が並んでいる
まいにち あそぶときと同じに

見る間に
青黒く彫りだされた腕の やわらかい
あなたはなおも
腕をいっぱいに伸ばして
わたしの顔を捕らえようとする

ああ
せんせい 怒ってるんでないんだ
あなたを組み伏せねばならないのは
ひとのことばでないんだ
あなたの爪も 歯も ふるう腕も
泣く声も 打ちつける頭も 声も
声も
声も
ひとのことばでないんだ
わたしの手の大きいのも 体の押しつぶすのも
ごめんねもやめようねもいたいよもちがうよもあとすこしだよ

ああ
ひとのことばでないんだ

ごめんね
せんせい 怒ってるんでないんだ
ごめんね
ごめんね
ごめんね

ゴメンネ

片仮名で呟き
わたしの腕をなめた あなたに
今日も抱き受けられて 

一日は
青黒く にじんで
ひどく穏やかに 晴れるのだ


自由詩 朝礼 Copyright 縞田みやぎ 2008-05-14 22:50:10
notebook Home 戻る  過去 未来
この文書は以下の文書グループに登録されています。
がっこう