落花
岡部淳太郎

ものの名を知ることは
世界ととけあうことだ
曇天の下
すべては自らを中心に
分断されている
その心がかなしく
またこわいのだ
誰も知らない場所で
花が落ちるように
周囲から急速に暮れていく
おまえの名は知られていないから
世界はおまえをとかしてはくれない
ほんとうはとけたいのだ
空の星のようににじんで
やすらかに眠りたいのだ
だが誰も知らない時間に
またしても花が落ちる
その観察されない一瞬が
おまえの中にあたらしい傷をつくる
そしてうたが落ちる
うたが死ぬ
空は重荷に耐えかねたように
雨を落とし始める
その下でぬれる
いくつもの名のない花
世界にあらたな名を加え
それらをとかしあわせるために
おまえはすべてを知ろうとする
そしてぬれながら
生まれ落ちたばかりの者のように
自らの名を叫ぶ



(二〇〇八年四月)


自由詩 落花 Copyright 岡部淳太郎 2008-05-11 23:38:10
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