ウエハース島の思い出 1  〜ウエハース〜
よだかいちぞう

ウエハース島は
どこかの星の
どこかの海に浮かんでいる
ウエハースでできた島

そこには人が住んでいて
研究者や子供たちが住んでいる

研究者はウエハース島のことを研究している
子供たちはウエハースの陸地で遊んでいる

日差しが強い日だった
表面のウエハースがサクサクに乾いていた
子供たちはウエハースを棒や踵を使って掘って
中に埋まっているバニラ味のクリームを舐めようとしていた
また違った場所では地質学者がバニラ味の地層ではない
チョコレート地層に付いて研究していたが
あまりにも熱くチョコレートが溶けかかっているのを見ると
指でそれをすくって口の中に入れたのだった

大変だ!大変だ!
それはのどかなウエハース島では
あまりにも聞きなれていなかったので
浸透するのに間が掛かった
防災設備に不備があるビルに
火災が起きたようなことだ

島が沈む
それはウエハース島一の研究者である
オキシドドール博士の言葉だった
その言葉は間が掛かって
島に伝えられた

博士が言うには
海に浮かんでいるウエハース島は
そのうち海水がウエハースに染み込んで
その重みで島が水没してしまうと言うのだ

島の住人はやっぱり
自然に不安だと云う顔をみんなでした
ウエハースで遊んでいた子供たちも
異変に気付いて不安だという表情をみせた

恋人が居た
アルルコールという男の子と
リタという女の子

アルルコールは直接博士から聞いたことを
リタに話した
「博士が言うには沈むのは一億年先かも知れないし
今にもすぐかもしれない、けど確実に沈むって」
リタはそれを楽しそうに聞いていた
まるで、目の前を歩いていた子が躓いて転んで
笑いが吹き出そうなときのように

リタはアルルコールに云った
「楽しいことがはじまるわね
私はこの島の生活にうんざりしていたのよ
もしこの話が無かったら
私は暇を持て余して
首をくくっていたかもね
ああ、なんておもしろい話なの
島が沈むなんてすばらしいわ」

「でもリタ、沈むのは一億年先かもしれないし
島の人だって今は不安そうな顔を見せてるけど
そのうちなにも思わなくなるんじゃないかな?」

「そんなことはないわよ
私はさっき島の人たちを観察しに行ってたの
みんな終りを迎えたような顔をしていたわ
きっとみんな島がいつか沈むと
そう、いつかね
そのいつか沈むというので
もう、駄目になったのよ」


自由詩 ウエハース島の思い出 1  〜ウエハース〜 Copyright よだかいちぞう 2003-09-08 13:12:45
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