夕日坂
灯兎

白んだ月が ビルの谷間へふわりと浮いていて
空と一緒に白んだのだろうかと 埒も無い空想を浮かべて 
一度も君を抱きしめられなかった
思い出を
缶コーヒーで追悼する

夕日を好もしいと思う
ほこりをたっぷりと孕んだ赤みと
昼と夜の熱が入り混じった温もりが
映し出す 長い影
その優しさは とても分かりやすい

帰り道に
住宅街の真ん中を突っ切る坂を 上る
その先にはY字路があって
いつもそこで 君の手を離してしまったことを
今更になって 悔やむ

後ろで 影が ひっそりと揺らいだ

一人で上って来たはずの坂なのに
幼き日の君が 誰かを探しているような姿を
見つけたような気がして
立ち止まって 夕日を見る

ありふれてる幸せに恋した そんな日々
今はもう 戻れなくて
今も残るのは 優しさの余熱だけ

時の中で逸れたのは 君か僕か

今は ひとつ足りない影と ひとつ分の余熱
それしかないけれど
振り返れば いつでも君の手を掴めると
まだ思っていたい


自由詩 夕日坂 Copyright 灯兎 2008-04-29 05:18:34
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