霧の向こうに
餅月兎

悲しい歌は
歌う事を禁じられている

いまは
そんなまばゆき時代らしい
分類して片付ける事を得手とする
訳知り顔たちの
摩滅してゆくカレント

時代という名の
光と影が彫刻した悲しみは
食卓にピンポイントで投下される残酷なストーリーだ
そんな席に於いても
眠たい幸せで喋り続ける事が出来るうらやから
伏字黒塗りだらけの亀鑑を前に
沈黙を続ける原始の人類
口から異族の血を滴らせながらの
愉快で陽気な病

願わくば

管である事
記録される事を拒み
階段を降りてゆけ
そして
歌え
われらの丸まった背中の
その後ろで蘇生する日々を
暑苦しい幸せを脱ぎ捨てて
歌おうではないか
生々しくページをめくる幸福
禁じられた悲しい歌を
自らの血と汗を滴らせながら歌おう

霧に煙る海の向こうで
新しい人が生まれたとき
地層には
われらの骨など残らぬように


自由詩 霧の向こうに Copyright 餅月兎 2008-04-26 19:05:52縦
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