慟哭の雨
灯兎

心の隙間に風が吹きこんで あなたをさらっていく
そうして僕はまた 靴紐の結び目を固めて
ドアを開けて 外に出て行くしかなくなった

重く気だるく降り注ぐ 慟哭の雨に 縫い付けられた
焼身自殺者の瞳のように 赤々と開かれた空
桜の葬式に参列しているみたいで 足取りが弾む

葬式と言えば 雪の葬式には出ていないのだけれど
そもそも知らせすらなかったことを 思い出して
また一つ 風が 僕の結び目を解いていく

僕の葬式は どんなふうになるんだろう
骨を埋める場所も スーツも 写真立ても
ぜんぶ灰にしてくれたらいいのに

灰は風に乗って あなたのもとに届いて 
泪と雨を やさしく 吸い取ってくれたらいい
季節ごとの葬式には あなたと煙草があってほしい

救済の無い祈りなんてものに 思いを乗せるほどには 
愚かじゃないつもりだったけれども
絶望がカシスのように甘美で そううまくもいかない

そういえば絶望って 絶えぬ望みって書くんだ

彼らが死に近づかないことを 絶えず望んでいるように
僕が生から遠ざかることを 絶えず望んでいるように
同じところを辿ってきた願いが えいえんに届けばいい

祈りを吸い取ったみたいに 雨は段々とその重さを増して
願いに染められたみたいに 空は段々とその赤みを増して

こんな季節の終わりの遺影が あなたに届けばいい 


自由詩 慟哭の雨 Copyright 灯兎 2008-04-14 22:32:32
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