墓標に唄えば
灯兎

星座が分からないくらいの 夜空を見上げ
唇にはさんだフィルタが熱をもちはじめるまで
ぶらぶらと 墓の上を歩いている

葉桜の季節によせて 君を唄うということ 
それだけで今の僕には 充分すぎるほどに
だけど何か何か 何か違う 何か足りない

薄紅にまじるノイズが なんだか愛しくて
そんなことは たいした問題じゃないけど
そう思えるまでの時間は まるでえいえん

とっくに花は終わっているのに また朝がどうしようもなくやってくる
夜風の涼しさを嫌っているみたいに あなたの優しさを避けたみたいに
桃を溶かしたジンを舐めては 花びらをすくいあげるみたいに

ねえ どこに いるの
君はいま どこで だれと なにをしているんだろう
思うだけで ぼやくこともできず 開かない門とたたずむ

少しだけ寒いね カーディガンを羽織って
言った君を
引きとめることができなかった僕には しけた煙草が似合いだろう

君が見たがっていた花が いささか耽美にすぎるくらい
咲き誇っているというのに
僕はひとり 昔と変わらないままでいる 

あたりまえにかわしたキスは
きっと
君がくれた奇跡なんだろう

クローズハーモニーの官能が 頭に響いて
甘美なのは何も絶望だけじゃない そう気づいた夜


自由詩 墓標に唄えば Copyright 灯兎 2008-04-07 04:03:49
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