夜桜
渡 ひろこ

ひとひら
  ふたひら


黒い水辺の
むこう岸


藍色の闇に
ふわりと浮かぶ


燈籠のような
花明かり


ひとひら
  ふたひら


うろこのような
木肌をまとい


からみあう根で
地下にうごめく魍魎を


吸いあげて
噛んで
散らして


ひとひら
  ふたひら


人の業
憂いて
啜って


ひとひら
  ふたひら



(濁る世を我が身をもって鎮めれば
     いとも鮮やかに花は咲きけり)



夜露のきっさき
老樹の裾
艶めいて


ひとひら
  ふたひら






今宵も
メッキ工場の
影の下


汚泥のためいき
廃棄の骸
ねむる岸辺に



花明かり











自由詩 夜桜 Copyright 渡 ひろこ 2008-03-31 19:39:23
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