手紙と星の話
かのこ
明日の午前二時
天体観測に持っていくもの
ライトとポータブルラジオ、ノートと鉛筆、絵本、
紅茶の入った水筒とお菓子は500円まで、それから、
君は去年にも着ていた、あったかそうなブルゾンを羽織って
ゆっくりと吐き出す息が、もうかすかに白く昇っていくね
背が伸びて、気が付いたら、こんなにも星が遠くなってたんだ、って
君はとても丁寧に、呟くように、言葉をひとつひとつ紡ぐ
僕も君と呼吸を重ねるように、丁寧に、言葉をひとつひとつたどって頷く
そうやって織り成す会話と沈黙の間に、流れ込んでくるのは薄い雲
シリウス、ミラ、プロキオン
君は星の名前や位置をよく知っている
僕はノートに書いていく
『 前略
ねぇ。今日は晴れて良かったね。
星なんて、最近見ることなかったから・・・正直楽しみにしてたんだ。
ありがとう、今日ここに連れ出してくれて。
あと、ほかにも、いつもいろいろ、ありがとう。なんか、うまく言えなくてごめんね。
伝えたいことを何か形にして届けるのって、思ってたよりもむずかしくって
昔はもっと簡単なことだと思ってたんだけど、おかしいよね。
でも、形にして届けることができたとしても、伝えたいことが君にちゃんと伝わったかどうかなんて、わかんないだろうし、たぶん。
そのたびにね、君と僕の間には星と星とを繋ぐくらいの、とてつもなく遠い距離があるんだってこと、思い知らされる。
いつもこんなに近くにいるのにねって、ときどき途方に暮れたりするよ。
でもだから、ずっと隣にいれるように、どんなささいなことでも話して。僕もそうするよ。
』
両手の指に、ほぅ、と息を吐き出す、僕を見て
君が寒くないかって言ってくれた
それで、僕は思わず手を伸ばす
その頬に触れるように、あるいは、星に触れるように
君は近くて遠いひとだから
望遠鏡を覗くのと同じように、手を伸ばして、どうか繋いで