湘南、春の片隅で
銀猫


丸みの無い水平線の向こう、
空と海の境界が
白く曖昧になるあたりで
春、が転寝している


寒気から噴き出した風が止み
陽の降り注ぐ砂浜には
くろい鳥のような人影が
水面に微笑みを向け
沖ではヨットの帆が
海風と蝶のように戯れ
春、に流れている

海沿いのテラスで
トマトの匂うカクテルを透かしながら
砕けた氷の解ける様を
冬と重ねて
わたしも春のひとひらになり
こころをふっと
翡翠色の波に流してみると

帆を持たぬ小さな船は
波打ち際で横倒しになりながら
少しずつ沖の、
春のいる方へ流されてゆく


弥生月、
埃と潮と花の匂い
呼吸は
浅く。





自由詩 湘南、春の片隅で Copyright 銀猫 2008-03-10 21:39:13縦
notebook Home 戻る