足りないひと
恋月 ぴの

おかず一品足りないと
不機嫌そうな顔をするあなた
でもね、わたしだって何かと忙しいし
お給料日だってずっと先

あなたに足らないのはおかずじゃなくて
もうちょっとの頑張りなのかな
好きなひとには大きく羽ばたいて欲しいもの

誰一人立ち止まろうとしない
冷たい雨降る駅前広場の片隅でギターをかき鳴らし
あなたは歌っていた

微妙に音程外しながら
ありったけの思いの込めて

そんな姿に心惹かれてしまった
コードを押さえるのが精一杯の横顔に
わたしが失ったものを見つけたような気がして

いつの日にか巣立ちするのかな
この狭い部屋から
このわたしの腕のなかから

たとえば、あなたがテレビに出るようになって
芸能レポーターとか取材に来たりしても
喋ったりはしないからね
糟糠の妻って訳じゃないけど
おかず一品足らないと不機嫌になったとか
そんなことのすべて

しかめっ面を気取ってばかりいないで
たまには笑顔で歌ってよ

明日のおかず
もう一品ぐらい増やしてあげるから




自由詩 足りないひと Copyright 恋月 ぴの 2008-03-05 22:16:02縦
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