走るひと
恋月 ぴの

どうしよう、スタートまであと何分も無いよ
周りを見渡せば皆速そうな人ばかりだし
私がここにいるのって何だか場違いに思えてきた

友だちに誘われはじめてはみたけれど
誘った張本人はとっくの昔にやめてしまい
「今日はめちゃ頑張ってね」
両手で私に合図を送ると彼のクルマに乗り込んだ

トイレに行っておけば良かったかな

健康的に痩せられるから
そんな動機だったような気がする
靴底から伝わるアスファルトは思いのほか硬くて
足首とか膝が痛くなり眠れないときもあった

友だちがやめたとき、私もやめようかと思った
それでも朝目覚めるとシューズに足を入れ
シューレースを結び直していた

同じ時刻の同じ道
それなのに毎朝違う風景と出会える
季節は日々僅かながらも表情を変えてゆき
そして、その変化に励まされながら私は走り続けた

ゴールがあるから人は走れる

そんなことを考えたことがある
走りきった先に栄光のゴールテープと
地鳴りの様に湧き上がる歓声が待っていれば尚のこと
たとえ誰ひとり待っていなくても、ゴールがあれば直走れる

とにかく頑張らないとね

スターター台の上で係りの人がピストルを構えると
不思議と迷いなんて無くなっている私がいて

気がつけば鳴り響く号砲とともに
42.195キロの向う側で私を待つ未知の世界に向って
はじめの一歩を踏み出していた


自由詩 走るひと Copyright 恋月 ぴの 2008-02-03 09:54:48縦
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