初夜
簑田伶子


列車からはなった鮮花は孤児だから一枚一枚懐柔していく



長針の長さか短針の長さかと午前午後とも振り切れてなお



隣家の瓦のいろを確認する軋む板間にうぶ着の陽光



金柑の実が落ちそうになるのを視線でささえるだけの縁側



白魚の手を撫ぜたいと秘めた筆跡の余韻で散歩にでようか



木製のの傘たおれて傷に降る埃の気配だけがしんしん



一心にみだれぬと決めた艶髪に添われておちる瞳の真っ暗



親不孝なのかとささくれ見たままで口にできずに口にできずに



雲行きを白痴のごとく請け負えば池の鯉ともようやく目が合う



照明にふれて崩れた羽音がながい廊下の足音に似て



背丈ほどの影でしかない優しさがさんざめくから生涯連れ添う



線路わき咲かずに凪いだ春がゆく今宵あなたと葬列するのね








短歌 初夜 Copyright 簑田伶子 2008-01-29 23:02:07
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